小山怜央さん棋士編入試験五番勝負第4局の感想

2月13日に、小山怜央さんの棋士編入試験第3局が行われました。
これまでの成績は小山さんの2-1、この対局に勝てば、小山さんの棋士編入が決まります。

今回の試験官、横山友紀四段は「棋士のまち」こと兵庫県加古川市出身。甲南中高から甲南大学を卒業しています。井上慶太九段門下。井上一門は関西の名門で、多くの棋士・奨励会員を抱え、一時は一門全体で「藤井聡太キラー」とも言われていました。

小山さんの先手居飛車に、横山四段は得意の四間飛車に構えます。藤井システム風の出だしでしたが、44銀型の、いわゆる「鈴木システム」系の駒組みです。小山さんは居飛車穴熊に組み上げ、68角型に構えました。20年ほど前にはアマプロ問わず良く見かけた戦型です。お互いに攻めの反動がきつい戦型という印象があります。

小山さんは飛車先の突き捨てから48飛と仕掛けていきました。「居飛車の税金」16歩を省略できて効率がよく、実に参考になる手順です。驚くべきはここまで消費時間が3分。小山さんの研究が恐ろしく行き届いているのは周知の事実ですが、それにしても、よほど確信を持っていないと、こうはできないところです。逆に横山四段は、時間を使わされる展開。研究にははっきりと差があったようです。

小山さんの駒が気持ちよくさばけて、勝勢に。銀冠の端の小部屋に追い込んで、決めに行くのかと思いきや、自玉に手を入れました。AI的にはこれで、評価をガクンと落としたようですが、これをどう見るべきか。大勝負で手が伸びなかったのか、それとも、AIには明快な寄せも、人間的に読めば危険な筋が多かったため、実戦的に行ったのか。

いずれにせよ、これほどの強豪でも銀冠を正確に寄せるのは大変ということは分かりました。これは個人的に非常に興味深いところです。

その後横山四段も、プロらしいアヤを残してきますが、小山さんはしっかり勝ちきりました。やはり、評価値は将棋の一面にすぎず、ここは小山さんの大局観をたたえるべきかと思います。

これで小山さんは3-1の成績となり、見事プロ資格を獲得されました。戦後初めて、奨励会に一度も所属したことのない棋士の誕生です。また、初めて岩手県出身の棋士が出たのも大きいことです。
まずはフリークラスからのスタートになり、順位戦には参加できません。フリークラスを抜けるためには、規定がいくつかありますが、主に「30局以上で勝率6割5分以上」の規定を目安に頑張ることになります。

折田五段は2020年に編入試験を突破し、竜王戦は4組に昇り、棋王戦予選で谷川浩司十七世名人に勝つなど、実力は十分ですが、いまだフリークラスを抜け切れていません。編入試験合格者は、まだまだ、大変な勝負が続きます。

小山さんの将棋に対する取り組みは、極めて充実していて、プロもうなるほどでした。編入試験が終わってからも、成績・内容ともに、目の離せない棋士になると思います。

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