第81期A級順位戦プレーオフの感想

今期A級順位戦は藤井聡太竜王と広瀬章人八段が7-2で並び、3月8日(水)にプレーオフが行われました。

順位戦は順位1枚の差が非常に大きく、昇級と降級は同星でも順位差で決定しますが、
名人挑戦者だけは、決定戦で決まります。有名なのは第76期順位戦で、6-4で6名が並び、パラマス式トーナメントが行われました。

さて、本局は振り駒の結果、藤井竜王の先手になりました。藤井竜王の先手勝率は9割を超えており、振り駒で先手を握れたのは非常に大きかったと思います。

戦型はいつもの角換わり腰掛銀の最新形で、いつもの手数調整。先手側の方法論は確立してきており、後手に工夫が求められています。広瀬八段はさすが周到な準備をうかがわせる手順で、自陣角から桂得を実現しました。

しかし、その後の藤井竜王の攻めが実に的確。すぐに桂損を取り返し、切れない攻めが実現しました。中盤の手順は玄妙で、他の手との違いがなかなか見えにくいところです。具体的な順を相当掘り下げた先の図を比較したものと思われます。
結果的には、ほぼ互角から先手有利になり、そのままリードを広げて勝ちになりました。

本局でぜひ学んでほしいのは、攻防のバランスです。
まず、先手陣薄いですが、後手の歩が少ないため、見た目よりは持つ形であること。
次に、後手からの桂の攻めが急所となるので、先手は持ち駒の金を少し早めに手放してでも、桂を使わせたこと。これで先手玉は相当に寄せづらくなっていました。そして最後に、攻防に働く角に進退を決めさせたこと。金を取らせることで、角筋がそれ、後手玉は詰む形になりました。後手は金を取らなければ、詰みはないのですが、それでは、先手を寄せることができないので勝てない形です。藤井竜王はこれら点をふまえて速度計算を行っていました。

格言にも「攻めるは守るなり」といい、剣道では「攻防一如」といいます。
もちろん、これはプロなら大前提の考え方なのですが、藤井竜王は特にそれが緻密で正確です。

広瀬八段も作戦の手ごたえを感じていただけに辛いところでしたが、これは現状の角換わり後手番の辛さを象徴している結果かもしれません。ほかならぬ藤井竜王も苦しんでいるところでしょう。名人挑戦が決まり、藤井竜王のタイトル戦が続きますが、後手番の対策をどうするのか、ますます注目だと思います。

名人戦七番勝負第1局は、4月5日(水)・6日(木)に行われます。

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