羽生善治九段が藤井聡太王将への挑戦権を獲得

藤井聡太王将への挑戦者を決める、第72期ALSOK杯王将戦挑戦者決定リーグはいよいよ大詰めで、5-0で全勝の羽生善治九段と4-1で二番手の豊島将之九段が最後に残りました。ここで羽生九段が勝てば挑戦が決まりますが、豊島九段が勝つと、プレーオフで、両者の一番勝負で挑戦者が決まります。

戦型は角換わり腰掛け銀で、後手豊島九段は早々に桂跳ねを匂わせます。豊島九段はむしろ相手にこの桂を跳ねさせて矢倉の銀と交換されている気がしますが、どちらが得と見ているのでしょうか。

先手羽生九段が歩突きで桂跳ねを防いだのに対し、豊島九段の右銀の位置が攻撃的でした。玉は広いのですが、中央が薄い意味もあります。羽生九段はそれに反応し桂跳ね速攻を選びました。少しの形の違いで結論の変わる互いに怖い戦法です。羽生九段が角換わり最新形の理解度に自信を持っていることがうかがえます。

羽生九段は近年大変な不調に陥り、前期勝率は4割を切り、A級からも陥落しました。

しかし、今期は復活傾向で、勝率は7割近く、特に王将リーグも含めた4時間棋戦では、先日の棋王戦で佐藤天彦九段に負けるまで勝ちが続いていました。棋王戦もまだまだ挑戦に近い位置にいます。

さて、この将棋は早々に事件が起きました。豊島九段が先に銀損で王手飛車を狙う手に、羽生九段はあっさり乗ることを選びました。豊島九段は予定通り進めますが、突然手が止まり、長考に入ります。飛車を歩で捕まえる予定だったはずですが、そこで端角の切り返しがあります。それだと後手はっきり悪いので、角筋を防ぎましたが、銀をタダで渡して代償がなくなったので、大差となってしまいました。

不思議なのは、この戦型、序盤で1筋の突き合いがあるのはごく普通だということです。最近のタイトル戦にも何度も出ています。なので、角打ち自体が見えてなかったはずはないし、かといって、やはりこの戦型の基本である銀の位置どりの違いを錯覚したなどというのも考えづらいところです。しかし、何か錯覚があったのは確かです。

とはいえ、大差になってもプロの将棋は簡単ではなく、棋界屈指のバランス感覚を持つ豊島九段は容易に崩れません。形の整備がうまく、しかも飛車・桂・歩を手にして右桂を活用できているので、アマチュア的には形勢のバランスが取れているようにすら見えます。

しかし、プロ的には、覆らない形勢差だったようで、羽生九段は独特の形になった先手陣をまとめる角打ちから、確実な手を積み重ね、しっかりと勝ち切りました。

これで羽生善治九段の藤井聡太王将への挑戦が決まりました。50代での挑戦権獲得はもちろんのこと、リーグ6戦全勝もすごい記録です。

羽生九段のタイトル戦登場は2020年の竜王戦以来3年ぶりとなります。通算タイトル獲得100期がかかっており、これから全冠制覇に向かうと見られる藤井王将との番勝負は、まさに夢のカードです。

王将戦七番勝負第1局は年明け1月8日・9日、静岡県の掛川城で行われるとのことです。

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