小山怜央さん棋士編入試験五番勝負第1局の感想

28日に、小山怜央さんの棋士編入試験第1局が行われました。

第1局の試験官の徳田拳士四段は前回試験の里見女流五冠との対戦の時点で公式戦12勝1敗でしたが、その後も勢いは止まらず、新人王を獲得。今回の試験の時点で27勝4敗、勝率は八割七分で藤井竜王を超えて全棋士中1位という、超強敵です。

振り駒の結果小山さんの後手番となり、戦型は角換わり腰掛銀の最新形に進みました。プロ間で近年最も多く指されている戦型を後手番で採用とは驚きましたが、プロとしてやっていく自信と自覚を見せつけられた気がします。

小刻みに駒の位置取りを変えて手待ちをする、じっくりとした展開。双方ほとんど時間を使っておらず、どれほど研究が行き届いているかわかります。

小山さんが中央に銀を進出した手に対し、徳田四段が仕掛けます。後手の形がいささかいびつなようにも見えましたが、前例のある仕掛けで、中継アプリの解説によれば、佐々木勇気七段がほとんど時間を使わず快勝した将棋があるようです。純粋振り飛車党の久保利明九段が覚えているくらいですから、棋士間でも話題だったのでしょう。

その後も小山さんはあまり時間を使わず進めます。研究量がすごいのはもちろんですが、そもそも角換わりの膨大な分岐の中で、ちゃんとこの形にたどり着くとは恐るべき序盤力です。

先手は桂頭を攻め、桂得に成功しますが、後手も飛車を活用、1段目のいわゆる「地下鉄飛車」のルートで転換し、成りこむことに成功しました。激しい攻め合いです。

小山さんは攻められた桂頭の筋を逆用します。まず自陣に香を設置。「下段の香に力あり」です。しかも、1段目ではなく2段目に打ったのが細かく、印象的でした。歩で取られる場合は、なるべく下段に打った方が、香を吊り上げるためにより多くの歩を取れるのですが、本局は、馬で取られたとき、後に馬を良い位置にひける筋でないほうがいいという判断でしょう。実に行き届いています。

徳田四段はなんとか馬を急所引き付け、嫌味を残しますが、小山さんが馬取りに打った歩が絶妙でした。何で取っても味が悪いため、馬をかわしますが、成香を銀で払って馬に当て、その銀を取った馬をまた金の移動ではじいて、手番を手放しません。先手もぬるい手では勝てないので、玉に歩のたたきを入れますが、そこで玉をかわされると、先ほど馬に働きかけた歩が利いて王手の馬寄りがありません。結局先手はとりたくなかった歩を馬で取らされました。

その後も小山さんは握った手番を生かし、緩みなく寄せます。先手は上部に脱出し、入玉を目指しますが、そこでまた、馬取りの歩。これで先手の入玉阻止に成功しました。最後は働きが弱かった竜まで自陣に引き付け、盤上を制圧して勝ち切りました。

下馬評ではさすがの小山さんもここは厳しいと見られていました。勝利を収めたのが見事なのはもちろん、何より将棋のつくりが素晴らしかったと思います。難敵を下し、合格に大きく近づきました。もちろん第2局目以降の相手もプロであり、油断は禁物ですが、小山さんに限って油断はないでしょう。そもそも強いアマほど、プロの恐ろしさをよく理解しているものです。

第2局は12月12日に予定されています。

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