第35期竜王戦七番勝負第4局の感想

藤井聡太竜王に広瀬章人八段が挑戦する第35期竜王戦七番勝負第3局が、11月8日(火)と9日(水)に行われました。

戦型は角換わり腰掛け銀で、先手藤井竜王の新型の金配置に対し、後手広瀬八段は旧型の金配置。これは桂跳ね速攻に対応しやすい構えです。後手は金を開いて一手パスする狙いかと思いきや、63金と桂頭を守る形にしました。最近のプロの将棋ではあまり見ない気がしますが、アマチュアではベテランを中心に結構愛好者がいるイメージです。

後手からの仕掛けに、先手も桂跳ねで応戦します。この桂は歩で取りきられてしまいますが、その間に馬を作り香車を取って駒損を回復。ただし歩切れになっており難解です。数局ある前例は星が拮抗しており、広瀬八段はこのデータから、有力な作戦とみて採用したものと思われます。

しかし、55手目、前例では全て69香のところ、藤井竜王は35歩でした。このような攻めの側の歩を伸ばす手は非常に筋が良く、仮に最善でなくても、悪手にはなりにくい手です。藤井竜王はここまでの流れは知っていたと思いますが、どこまで事前準備があったかはわかりません。いずれにせよこの歩突きは新手と言ってよく、持ち駒の香を温存して敵玉の筋の歩を突くわけですから、69香に比べ実に格調が高く、期待感の膨らむ一手です。広瀬八段は強く攻めたくなりそうなところ、じっと歩の取り込みで、先手を牽制します。

先手は温存した香を27香と、飛車の前に打ちました。攻めゴマを足す「足し算」の手でわかりやすいようですが、意外とこの局面では見えにくい手。中継アプリによると、解説の稲葉陽八段も見た瞬間は「へえ」という反応だったようです。感覚的に、飛車の利きが通ったまま走る形は実現しそうになく、走れずに残ってしまったらぼやけた駒になる恐れがあります。

そういえば、級位者の方の将棋で「棒銀戦法」で銀交換に成功した後、もう一度銀を打っているのを良く見かけますが、この香もちょっとそれに近い感触があります。

しかし、本局の香打ちは、読みの入った好手でした。広瀬八段は長考の末、桂打ちで金を狙いつつ、飛車の利きを止める狙いを見せますが、それでも先手は堂々と香と走りました。後手は予定通り歩で飛車先を止めましたが、飛車に寄られてみると、香取りの歩打ちは二歩で打てず、直前に打った桂に取りがかかって忙しい局面です。

後手は先手の馬を働かせたくないのですが、その馬の利き筋を止めている桂をを跳ね出せないと、戦力不足というジレンマがありました。後手は最大限工夫します。玉頭に手を付けて金を上ずらせ、反対側で歩成を聞かせて銀を追いやり、ついに桂跳ねを決行しました。

しかし、そこから先手は香を生かしてと金を作り、利き筋が通った馬を引き付けることができて、最後は大差になりました。

これで藤井竜王は防衛まであと1勝としました。
カド番の広瀬八段は貴重な先手番ですが、まだ秘策を残しているのでしょうか。
事前準備でリードを取れた第1局~第3局に比べ、今回の第4局は封じ手の時点で悪くしており、やや準備の時間が足りなかったとも取れます。

そうなると、いよいよ、伝家の宝刀「振り飛車穴熊」の鞘を払う可能性もあるかもしれません。

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